帝国との練習試合も終り、俺はひとりで帝国サッカー部の部室へ向かっていった。
久しぶりに着た赤いマントも少し、くすぐったい。
自分的に、赤が好きなのだが・・・雷門のユニフォームにはちょっと赤は似合わないと思った。
するするとしたマントの心地よい感触に
おもわず目を細めた。
久しぶりに、この部室の前に立つ。
ずいぶん前にここを出て行ったので、この部室のドアを開ける感覚すら鈍っていた。
ドアの取っ手に触れ、しばらく口を小さく開け、固まってしまう。
なんか、変な感じだ。
円堂は”鬼道が分からないことは、不思議”とかうんやらかんやら
言っていた気がするが…本来、俺は3分の2位のものは分からないものばかりだ。
だから、今もどうしてドアに触れたら固まってしまったか、など
そのわけが、全く分からなかった。
キィィィィ
部室の匂いに、思わず目をつぶる。感情に浸っているのだ。
こんなことは、絶対に無かったはず。だが・・・・・
「こんな気持ちになるのは…おかしいのかもしれないな…」
部室の中には、試合に出れなかった佐久間の帝国ユニフォームが
落ちていた。
ガクン、とそのまま体が重くなり、ユニフォームの置いてあるベンチに倒れ掛かってしまった。
瞬時に手をつき、そのまま体を起こそうとしたとき、
ふ・・・と、優しい香りが俺を包んだ。
「(佐久間の…ユニフォームの香り…)」
そう、思いユニフォームをつかみ、ぎゅっ、と抱きしめた。
なんだか・・・ずごく、落ち着くにおいだ・・・・と。思った・・・・・が、頬が熱くなる。
「(お、俺は変態かっ!!!)」
ばっ、とユニフォームから手を離す。
手を離すと、なんだが不安の気持ちに覆われた。心が、大きく揺れた感触がわかる。
気がつくと、佐久間のユニフォームに手を伸ばし、顔をすりつけていた。
「(おれ…結局は佐久間を助けてやることができなかったんだな・・・・・・)」
視界が、大きく歪んだ。
目を瞑ると大粒の涙が、ゴーグルの中を涙でいっぱいにした。
駄目だ…と思い、ゴーグルをはずして、自分の腕で涙をくぐった。佐久間は、もう・・・みんなは
俺のことを憎んではいない。だけども、俺の心の中で不安を抱いている。
彼らの言っていることが、本当の言葉なのか信じられなくなった・・・・・・
「(佐久間・・・源田…おれは・・・)」
まだ・・・・お前たちの誇れる帝国の立派なキャプテンですか?
片手に持っていたゴーグルを、投げ捨て
佐久間のユニフォームを抱きしめてその場に縮こまった。怖くてたまらなかった。
「鬼道?」
そこには、松葉杖をついて歩いている佐久間がいた。
俺は思わず、目を大きく開く。
「・・・・・っ!・・・佐久…佐久間…っ」
「ど、どうしたんだっ?そんなに泣いて・・・っ!まさか・・影山に・・!!」
「ちがう・・・ちがう、んだ・・・」
「っ!」
俺の持っていたものを見て、佐久間は吃驚したらしい。
確かに、自分のユニフォームを持って泣いていたら、だれでも気持ち悪いと思うだろうな。
「ぅ・・・すまない…」
「いいや、誤ることじゃない」
声を詰まらせて言うと、佐久間は笑顔になった。
隣にしゃがみこむと、俺に質問をしてきた。
「鬼道・・・・・不安になったか?」
「・・・・・・っ!ぁあ」
「俺の匂いを嗅ぐと、落ち着くか?」
「っ!」
ユニフォームを握りしめ、大きくうなずいた。
と、佐久間は急に動き出し、大きな影が俺の影と重なった。
ずしっ
「っ!・・・佐久・・間?」
「こうやっていれば、ずっと安心してられるだろ?俺も、源田も辺見も成神だってさ・・・鬼道の不安そうな顔を見るのが一番嫌なんだ。だから・・・」
佐久間は、後ろから体重をかけ肩に腕を乗せ、そのままぎゅう、と俺を抱きしめて来た。
不安は、どこかへ消えていた。しかし、なんだか心の底から何かが溢れてきた。
涙が、止まらない・・・・・
「佐久間…ちょっと、このまま、にして・・くれっ・・ないか・・っ?」
「あぁ。ずっと、こうしてる」
「佐久間・・・」
「ん?」
「・・・・・・大好きだっ!」
end…
[7回]
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